ヴェーダ聖典 ヴェーダ聖典はインドーヨーロッパ語族のもつ最古の文献であり、古代インドの 宗教や思想を知る好個の手がかりになるのみならず、言語学や比較思想の研究にお いても重要な資料となっている。現代でもヒンドゥー教徒は自分たちの宗教の源泉 はヴェーダ聖典であると考えている。ヒンドゥー教の別名である「サナータナーダ ルマ」(永遠の法)は、連綿と伝承されてきたこのヴェーダ聖典の権威を意味する 言葉である。 「ヴェーダ」という言葉は「知る」を意味するサンスクリット語の動詞語根ヴィ ドから作られた名詞で、知識一般を指すが、とくに宗教的知識を意味するようにな り、さらにその知識が集成された聖典の総称となった。ヴェーダ聖典は人間や神に よって作られたものではなく、聖仙が神秘的霊感によって感得した「天啓聖典(シ ュルティ=聞かれたもの)」とされ、単にヴェーダと呼ばれることもある。 ヴェーダ聖典には次の四種がある。 @『リグーヴェ〜グ』・:主として神々に対する讃歌(リチュ)が集められたもの で、本集はI〇二八讃歌を含み、前二一〇〇年頃を中心に前後数百年のあいだに 成立したと考えられている。神々を祭場に招き、讃誦を行うホートリ祭官に属す る。 A『サーマーヴェ〜ダ』・・・これは歌詠の集成で、大部分は『リグーヴェーダ』の讃 歌と同じだが、独特の旋律(サーマン)で読経される。歌詠を行うウドガートリ 祭官に属する。 ▼ヴェーダ聖典は『リグーヴェーダ』『サーマーヴ ェーダ』『ヤジュルーヴェyダ』『アタルヴアーヴ ェ〜ダ』の四系統がそれぞれ本集・祭儀書・森林 書・奥義書の四部門を持つが、聖典の数は四×四点 で構成されているわけではない。四系統の内部でも 分裂があって本集もそれぞれいくつかの派に別れて いる。祭儀書以下もさらに分派が生じ、数多くの文 献が生み出された。各派に伝承された聖典の書名に ついては、辻直四郎『インド文明の曙』(岩波新書) 巻末のヴェーダ文献一覧表が参考になる。 ▼天啓聖典と伝承聖典 ヒンドゥー教の聖典は二種に大別される。一つは 「天啓聖典(シュルティ=聞かれたもの)Lと呼ば れるヴェーダ聖典である。もう一つは、聖仙たちが 作ったとされる「伝承聖典(スムリティ=記憶され たもの)」で、天啓聖典に次ぐ権威が与えられてい る。伝承聖典に何が含まれるかは諸説あるが、一般 に、ヴェーダの補助学書(ヴェーダーンガ)、二大 叙事詩、プラーナ聖典、マヌ法典などの法典類が入 ると考えられている。